院長コラム

第6回 ニキビに「抗菌薬をください」は正しいか?

当院ではニキビ(皮膚科学的にはざ瘡といいます)の患者さんが多くお越しになりますが、時に「ニキビなのでクリンダマイシンゲルをください」「ニキビなのでミノマイシンをください」とお薬を指名されることがあります。正直なところ、その度に少し残念な気持ちになるのです。今日はその理由について書いてみたいと思います。

アクネ菌は悪者?
ニキビと聞くと、多くの方は「アクネ菌のせいね!」と思われるかもしれません。実際、世の中に溢れる市販のニキビ治療薬は「アクネ菌を退治しよう」とか「炎症をしずめる」といったコピーが付けられているため、そう思うのも無理はありません。しかし、ニキビとはそんな単純な話ではないのです。

端的にいうとニキビは ①皮脂の分泌が盛んになる ②皮膚のターンオーバーが乱れ、厚くなった角質が皮脂と共に毛穴が詰まる(この状態を面疱と呼びます) ③詰まった毛穴の中でアクネ菌が増えて炎症をおこす の3つの要素から成り立っています。(図1)

ニキビのなりたち
図1「ニキビのなりたち」

アクネ菌は元々皮膚に存在する常在菌で、本来は皮脂を分解して皮膚の保湿を行うグリセロールと病原性のある菌を抑える脂肪酸を形成し肌を健やかに保つ役割を持っています。アクネ菌は嫌気性菌といって空気のない環境を好むため、コメドがつくられ、毛穴の中の空気がない状態では異常な増殖を開始します。この増えすぎたアクネ菌が炎症をおこし、赤いニキビ・黄色いニキビ(炎症性皮疹)となってしまうのです。菌を殺すだけことを一生懸命おこなっていても、コメドをコントロールしない限りはアクネ菌が増えやすい環境を保持することになってしまいます。皮膚科ではアダパレンや過酸化ベンゾイルといった面疱をコントロールする外用剤(面疱治療薬)を使ってニキビができにくい肌を作る事を念頭に治療しています。もちろん、赤いニキビ・黄色いニキビに対しては抗菌薬の使用も行いますが、例えば予防的に使ったり、いつまでも使い続けたりすることは避けるべきです。ではその理由はなんなのでしょうか?

AMRを知っていますか?
生物は生き延びるため、環境に適応できるように遺伝子を改変していきます。それは細菌も同じです。抗菌薬から生き延びるために遺伝子変異を起こして生き延びようとした結果、薬剤耐性(AMR; Antimicrobial resistance)を獲得します。そうすると抗菌薬を使用しても効果が出ないということが起こります。残念ながらアクネ菌に対しての耐性菌はすでに存在しており、増加傾向にあります。せっかく頑張ったニキビの治療が進まないことも困るのですが、AMRのもっと恐ろしいところは他の菌からその耐性を譲り受けたり、遺伝子を拾ったりしながら、より高度な耐性を獲得することなのです。つまり、より多くの菌が、より多くの薬剤に対して耐性をもってしまうのです。薬剤耐性菌のうちよく知られているものにMRSAや多剤耐性緑膿菌があります。これらの名前はどこかで聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれませんね。薬剤耐性菌による感染症をおこすと、治療効果が不十分となり、免疫が低下した人や高齢者などでは死に至る可能性があります。実際にWHOの報告によると、2013年時点でのAMRによる死亡者数は少なくとも70万人、このまま対策をとらず、耐性菌が増えていくと2050年には1000万人を超える死亡者数となることが想定されています。2018年のがんの死亡者数が世界で960万人と推計されていますから、これを超えるということは大変なインパクトがあります。(図2)

このため2015年の世界保健総会ではAMRに関するglobal acntion planが採択され、日本でも 厚労省によりAMRアクションプランが決定されています。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html)詳細は厚労省のページをご覧いただければと思うのですが、適切な抗菌薬の使用を心掛けることを、医療側に求められています。

AMRに起因する死亡者数の推定(オニールレポート)
図2「AMRに起因する死亡者数の推定(オニールレポート)」

アクネ菌のAMRを防ぐには
ではニキビで抗菌薬を使用する際に、注意しなければならない点はなんでしょうか?

耐性菌を防ぐために適切な抗菌薬を選択し、適切な量を、適切な期間、適切なルートで投与することが求められています。ニキビの治療では炎症性皮疹を治療する目的で抗菌薬を使用しています。皮疹の数、重症度に応じて外用剤、内服薬のいずれか(もしくは両方)を使用するかを選択しています。また、先ほど述べた面疱治療薬との併用により、耐性菌の発生を減らすことができるため、抗菌薬だけで治療するのではなく面疱治療薬と一緒に使用することが重要となってきます。ここで患者さんにご理解、ご協力していただきたいのは

  1. 炎症性皮疹がある時のみ抗菌薬を使用すること(適切な抗菌薬の選択)
  2. 炎症性皮疹の量や重症度によって薬の種類やどのような形で投与しているかを決定していること(適切なルート)
  3. もらった薬は定められた用法で使用し、飲み忘れ・塗り忘れを防ぐこと(適切な量)
  4. 飲み薬は飲み切って、余ってしまった薬をとっておかないこと(適切な期間)

の4点です。

炎症性皮疹が長引くと、ニキビあと(瘢痕)となり治療に大変苦労します。皮膚科医のニキビ診療のミッションはなるべくニキビあとをつくらない、そしてニキビができにくいお肌にすることと考えています。必要な時には抗菌薬も使用しますので、皆さんもご協力のほどよろしくお願いいたします。

2024.10.15 深野祐子

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