院長コラム

第5回 帯状疱疹ワクチン シングリックスの接種について

2022年の秋から冬にかけてテレビで帯状疱疹ワクチンのコマーシャルを目にすることが何回かあり、患者さんからも診察室で帯状疱疹ワクチンについて質問をいただくことがありましたので、今回は帯状疱疹とワクチンについて簡単にまとめてみたいと思います。

帯状疱疹とは
帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウィルス(以下VZV)により発疹と痛みをきたす皮膚の病気ですが、一般的な感染症(例えば水虫)のように、他人からうつったものではありません。過去に水痘 にかかったことのある方におこる疾患です。初めてVZVに感染すると水痘を発症し、発熱と全身の水疱を認めます。水痘から回復したあとも VZVは体内からいなくなることはなく、脊髄の後根神経節に潜伏してます。しかしながら感染直後 はVZVに対する免疫をもっているため、すぐに症状が再発することはありません。VZVに対する 細胞性免疫は加齢と共に低下するため、多くの場合は数十年の時を経て、VZVが再活性化さ れ、症状が出現します。このときのVZVのターゲットは皮膚と神経のため、潜伏していた神経の 走行にそってまずピリピリとした痛みがあらわれ、その後紅斑や水疱が出現します。皮疹が治っても痛みが続くことも多く、時には3ヶ月以上にわたって痛みが残る「帯状疱疹後神経痛(以下 PHN)」に移行する方もいらっしゃいます。PHNは数ヶ月から数年に渡って痛みが続きます。日常生活や睡眠に支障がでるほどの痛みが生じることもあり、患者さんのQOLが低下が大きな問題となります。また頻度は少ないながらも生じた部位によっては顔面神経麻痺や難聴、角膜潰瘍、脳炎、髄膜炎といった重篤な合併症を生じることがあります。

帯状疱疹と年齢の関係
国立感染症研究所の予防接種法に基づく感染症流行予測調査によると、成人の VZV に対する抗体保有率は 90%以上と報告されており1)、大人のほとんどが帯状疱疹の発症リスクを抱えています。国内の大規模疫学調査(宮崎スタディ、SHEZスタディ)では50歳を超えると帯状疱疹の発症率が高くなり、70歳代で8人/1000人/年とピークを迎え、80歳までに3人に1人が帯状疱疹を発症すると推測されること、50歳以上では帯状疱疹を発症した方のうち19.7%がPHNを発症し、年齢が高くなるにつれてPHNの発症率も高まることを示しています2)。つまり50歳を超えると帯状疱疹に対する備えを検討すべき時期といえるでしょう。

帯状疱疹の発症グラフ
※1 2001~2005年に国立感染症研究所により収集された全国の健康な日本人(0~82歳)の血清標本828検体の水痘帯状疱疹ウイルスIgG型抗体を測定。
※2 Ueno-Yamamoto K. et al.: Pediatr Infect Dis J. 29(7), 667-669, 2010

帯状疱疹の治療と予防
帯状疱疹を発症した場合、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナビルといった抗ウィルス剤の投与をできるだけ早期に行い、症状によって鎮痛剤や抗うつ剤、神経ブロックな どの補助療法を行います。しかし、高齢者や皮疹の面積が広い場合、免疫低下の状態にある方 は重症化やPHNの合併の懸念があるため、やはり発症しない、発症しても重症化しないに越したことはありません。そして多くの感染性疾患同様、ワクチンの接種が帯状疱疹の発症予防そして重症化予防に効果的です。
日本では2016年から50歳以上の患者さんを対象に阪大微研の乾燥弱毒生水痘ワクチンの使用 が可能になりました。海外は日本で使用しているワクチンと同じOka株を用いて作成されたZOSTAVAX®が使用されています。ZOSTAVAX®接種後約3年間の追跡調査で帯状疱疹の発症頻度は対象群にくらべて51.3%減少し、PHNの発症率は66.5%、重症化は61.1%減少し、高い予防効果があることが示されています3)。しかし、長期追跡調査では約8年でワクチンの効果が消失することが示されていること、生ワクチンのため化学療法や免疫抑制剤で治療している方やHIV患者さんなど、免疫抑制状態にある方には使用できないことなどが問題として挙げられます。そのため、新規ワクチンとしてシングリックス®が開発されました。シングリックス®は従来の生ワクチン(ウィルスを弱毒化したもの)とは異なり、VZVの糖タンパクとアジュバンドで構成されるサブユニットワクチンで、このワクチンに使用されているAS01Bというアジュバントは強い液性および細胞性免疫を誘導することが知られています。シングリックス®は接種4年後の調査によると帯状疱疹の発症抑制率は50歳以上では97.2%と非常に高く4)、70歳以上に限定した別の調査でも89.8%と高い効果を示しました5)。またPHNの発症に対しても50歳以上では100%、70歳以上では85.5%の減少を認めており、発症および合併症の抑制に高い効果を示しました。現在も追 跡調査が継続しており、10年後も73.2%と効果が持続することが示されています5)。また免疫が抑制された患者さんでも安全性が確認されています。日本でも2018年に承認され、使用できるようになりました。当院でもシングリックス®の接種を行っております。

帯状疱疹という病気は80歳までに3人に1人が罹患するということもあり、周囲の方が罹患されて辛かったと聞いた、自分もかかり痛かったのでもうかかりたくない、というお話をしばしば耳にします。痛みが続くのはとても辛いですし、顔面に生じた場合は合併症や瘢痕のリスクも考慮しなければなりません。特に70歳以上の方では発症率も高くなりますので、ワクチンの接種を検討され てはいかがでしょうか。

  • 1) https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/6358-varicella-yosoku-serum2015.html
  • 2) Shiraki K. et al.: Open Forum Infect Dis. 4(1), ofx007, 2017
  • 3) Oxman MN, et al., N Eng J Med 352(22):2271-2284, 2005
  • 4) Lal H. et al.: N Engl J Med. 372(22), 2087-2096, 2015
  • 5) Cunningham AL. et al.: N Engl J Med. 375(11), 1019-1032, 2016
  • 6) Strezova A. et al.: Open Forum Infect Dis. 9(10) Oct 2022; ofac485,

接種の実際に関してこちらのページをご覧ください。 2023.3.24 深野祐子

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